東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1740号 判決
控訴人主張の本件店舗の再転貸を理由とする転貸借解除の当否について検討するに、成立に争ない乙第五号証の一、二、三原審における共同被告大村はるみ、原審における被控訴人本人の各供述の一部と前記吉田ふみの証言その他の証拠とをあわせると、被控訴人が本件店舗で中華料理店を開業してから後、昭和二八年八、九月ごろ一、二回ほど見知らぬ者が控訴人方に来て、「これが権利金二十万円で家賃一万五千円という店か」といつてたずねたことがあり、被控訴人は同年一〇月ごろから中華料理店を休業したが、その後間もなく大村はるみを、弟の妻だといつて控訴人に紹介し、大村に店をやらせるといつたので、このときも控訴人は中華料理店は病人によくないから困るといつてことわつたが、それにもかかわらず被控訴人は大村を入居させたものであるところ、大村はその実、被控訴人の妻の従兄弟の妻であつて遠い関係の親戚の者でしかないこと、そしてその後は本件店舗の控訴人の標札ははずされて大村の標札がかかげられ、保健所からの営業許可も従来は被控訴人名義であつたものを大村名義で受け、ガス引用申込も、その工事費用の納入も大村の名義とし、中華料理店の家号も全然改め、大村は夫とともに、材料の仕入、調整をし、雇人も自ら給料を払つて雇入れるなど、中料理店営業の一切を引き受け、かつ、夫、雇人とともにここにね起きし、(ただし、それは調理場の隅の畳二畳の部分、客席の畳一畳の部分を利用していたもので、併用住宅の住宅部分とは認められず、店舗の一部である、)控訴人への家賃も被控訴人名義で大村が支払つていたこと、そして被控訴人はそれ以来本件店舗を使用していないものであることが認められる。しかし、他面において大村は被控訴人から毎月金二万円ずつの給料をうけ、月に三度くらいは営業の計算を被控訴人に報告していたこともうかがわれるところである。
ところでこのように店舖の賃借人がその店での営業をやめてそのかわりに他人を住み込ませて営業をさせ、店の入口の標札もその者の名に書きかえ、家号も従来のものとは改め、営業許可も、営業用ガス使用名義もその者の名前とし、第三者にたいしては全くその店の営業主がかわつたような所為を表示した以上、民法第六一二条第二項に賃借人カ第三者ヲシテ賃借物ノ使用ヲ為サシメタルトキにあたると解するのが相当である。たとえ賃借人が内部においてはその営業人にたいして給料を支払つたり、営業上の計算報告をさせたりした事実があつたとしてもそれによつては、第三者の営業は賃借人の利益および損失負担においてなされるのであろうかとの推測をすることはできても第三者の前記のような状態を賃借人から独立した占有とみるをさまたげない。なお、賃借人が賃貸人にたいして店の営業者は自己の雇人であるといい、その者が賃借人の名前で賃料を支払つていたものとしても、転貸したりまた賃借権を譲渡したりしながら、これを賃貸人に秘しておこうとする場合に、賃借人がその名において賃料を支払うことはあり得ることであるから、前示認定をさまたげるものではない。
(藤江 原宸 猪俣)